画像アノテーションの種類6手法|工数と精度で選ぶ使い分け

画像アノテーションの種類6手法|工数と精度で選ぶ使い分け

同じ画像でも、四角で囲むのか、輪郭をなぞるのか、特徴点を打つのかで、必要な費用は30倍以上開くことがあります。それでいて、精度が高いほうを選べば安全というわけでもありません。輪郭までなぞったデータを用意しても、AIが返すべき答えが「何が、どこに、いくつあるか」であれば、増やした情報は学習に使われないまま費用だけが増えます。

この記事では、画像アノテーションの手法を6種類に整理し、それぞれの粒度・工数・単価・出力形式を並べて比較します。そのうえで、タスクから手法を決める順序と、工数を抑えたまま精度要件を満たす組み合わせ方を扱います。手法名は知っているが自社の案件でどれを選ぶべきか決めきれない方、複数社の見積もりを同じ条件で比べたい方に向けた内容です。アノテーション全体の工程はデータアノテーション完全ガイドを参照してください。

1. 画像アノテーションの6手法は、粒度が上がるほど工数が大きく増える

画像アノテーションの手法は、対象をどう囲むかで分かれます。実務で使われるのは次の6種類です。

手法付ける情報工数の目安(対象物1つ)単価の目安代表的な出力形式
画像分類画像全体に1つのクラス3〜5秒1枚 5〜10円クラス名、CSV
バウンディングボックスクラスと矩形の位置5〜10秒対象物1つ 15円程度COCO、YOLO、Pascal VOC
ポリゴンクラスと輪郭の多角形40〜90秒対象物1つ 75円程度COCOのsegmentation配列
セグメンテーション全画素のクラス1枚 5〜15分1枚 300〜500円インデックス付きPNGマスク
キーポイント特徴点の座標と可視性1点 2〜4秒1点 5〜10円COCO keypoints
ポリライン線状の対象の経路1本 15〜30秒案件ごとに個別見積もり点列(座標の配列)

単価は一般的な目安で、対象物の複雑さ、1枚あたりの対象物数、要求品質、依頼ボリュームで変わります。費目の内訳と見積もりの積み上げ方はアノテーション費用の内訳と見積もりの立て方で詳しく扱っています。

画像アノテーションの6手法を、付与する情報の粒度と1対象物あたりの工数の2軸に配置し、画像分類とバウンディングボックスが低工数側、ポリゴンとキーポイントが中間、セグメンテーションと3Dキューボイドが高工数側に位置することを示した比較マップ

粒度が上がるほど工数は増えますが、その増え方は手法によって大きく異なります。矩形からポリゴンへ変えると、工数は5倍前後になることが多いです。矩形は対角2点を指定すれば終わりますが、ポリゴンは輪郭に沿って20〜40個の頂点を置くためです。さらにピクセル単位のセグメンテーションでは、対象物だけでなく背景まで塗り分けるため、1枚あたりの作業時間が分単位になります。画像1枚の費用で見れば、画像分類の5〜10円からセグメンテーションの300〜500円まで、30倍以上の開きが出ます。

費用が増える分、得られる情報も増えます。ただし増えた情報がAIの精度向上につながるかどうかは、手法ではなくタスクで決まります。次章以降で手法ごとの適性を見たあと、6章でタスクから逆算する手順に戻ります。

2. バウンディングボックス:位置と個数が分かればよいとき

バウンディングボックスは、対象物を長方形で囲み、クラス名を付ける手法です。対角2点の座標で表現でき、作業も出力形式も単純なため、画像アノテーションで最も多く使われます。

適しているのは、AIの出力が「何が、どこに、いくつあるか」で足りるタスクです。

  • 通行量の計測(人や車を数える)
  • 棚の欠品検知(商品の有無と位置を検出する)
  • 作業者の立ち入り検知(指定エリアに人がいるかを判定する)
  • 部品の有無判定(組み立て工程で部品が付いているかを見る)

出力形式はデータセットの規格で決まっています。COCO形式は左上の座標と幅・高さ(x, y, width, height)、YOLO形式は画像サイズで正規化した中心座標と幅・高さ、Pascal VOC形式は左上と右下の座標をXMLで持ちます。同じ矩形でも数値の並びが違うため、学習側のフレームワークが読み込める形式を、作業を始める前に決めてください。途中で形式を変えると、変換作業に加え、変換後も矩形の位置やクラス情報が正しく保たれているか確認する必要があります。

矩形が向かないのは、対象の形が矩形から離れるとき

矩形で囲む方法の難点は、対象物以外の背景やほかの物体も範囲に含まれることです。実務で使える判断の目安は、矩形の面積のうち対象物が占める割合です。

  • 直立した人、正面から見た車、箱状の製品 … 対象物が7割以上を占める。矩形で問題ない
  • 斜めに寝た棒状の対象、湾曲した配管、枝を広げた植物 … 背景が半分以上を占める
  • 細長い電線、ひび割れ、道路の車線 … 背景が9割を超えることもある

背景が半分を超えると、モデルは背景の特徴も対象物として学習しやすくなります。この段階でポリゴンへ切り替えるか、手法そのものを線状の対象向けに変えるかを検討します。

矩形の表現方法、YOLOでの扱われ方、遮蔽や重なりで精度が落ちる条件は、バウンディングボックスとは?費用相場とYOLOでの使い方で個別に解説しています。

3. ポリゴンとセグメンテーション:形状・面積・境界が要るとき

対象物の輪郭が必要になるのは、後段の処理が形や面積を計算するときです。傷の面積から不良を判定する、農地の作付け面積を出す、臓器の体積を測るといったタスクでは、矩形では数値が出せません。

輪郭を扱う手法は、作業の仕方と出力の形で3つに分かれます。

ポリゴン:対象物だけを多角形で囲む

対象物の輪郭に沿って頂点を順に置き、多角形として閉じる手法です。背景は対象外のままなので、対象物の数が限られる案件ではセグメンテーションより安く済みます。

頂点の数は精度と工数を直接左右します。ガイドラインでは「曲線部は輪郭から3ピクセル以上ずれない範囲で頂点を置く」のように、ずれの許容量で指定してください。「なるべく細かく」と書くと、作業者ごとに頂点数が2倍以上変わり、工数の見積もりも品質も安定しません。

セマンティックセグメンテーション:全画素にクラスを割り当てる

画像のすべての画素にクラスラベルを付けます。道路・空・建物・歩道のように、背景側も分類対象になる場合に使います。個体の区別はしないため、隣接する2台の車は1つの「車」領域としてつながります。

代表的な手法と自動運転・医療・インフラ点検での使われ方は、セマンティックセグメンテーションとは?3種類の違いと手法を解説にまとめています。

インスタンスセグメンテーション:個体を区別して輪郭を取る

同じクラスの対象物を別々の個体として扱い、それぞれの輪郭を持たせます。重なった商品を1点ずつ数える、群れの中の個体を追うといった、個数と形の両方が要るタスク向けです。工数は3手法の中で最も大きく、遮蔽で分断された領域を同一個体とみなすかどうかの判断も加わります。

さらに、背景のクラス分類と個体の区別を1つの出力にまとめたパノプティックセグメンテーションもあります。違いと使い分けはインスタンスセグメンテーションとパノプティックセグメンテーションの記事で扱っています。

3手法の使い分け

知りたいこと手法
対象物の形と面積。個数は既知か少数ポリゴン
画像全体をクラスで塗り分ける。個体の区別は不要セマンティックセグメンテーション
同じクラスの個体を区別しつつ形も取るインスタンスセグメンテーション

ポリゴンとインスタンスセグメンテーションは、成果物としてはどちらも「個体ごとの領域」です。違いは表現方法で、ポリゴンは頂点の列、インスタンスセグメンテーションは画素の集合(マスク)として持ちます。学習側がマスクを要求するなら、ポリゴンで作業してマスクへ変換する運用が工数の面で有利になることが多いです。ただし変換すると細部が頂点の精度に制限されるため、境界の1〜2ピクセルが結果を左右する医療画像などでは、最初からマスクで作業します。

4. キーポイント・ポリライン・3Dキューボイド:点と線で構造を捉える

領域で囲む手法だけでは表現しにくい対象があります。姿勢、線状の構造物、奥行きのある位置関係の3つです。

キーポイント(ランドマーク):姿勢と部位の位置

対象物の特徴的な位置に点を打ちます。人体の姿勢推定では肩・肘・手首などに17点前後、顔のランドマークでは輪郭や目鼻立ちに68点前後を置く定義が広く使われます。

キーポイントで重要なのは、隠れている点をどう扱うかを最初に決めることです。COCO形式では各点に可視性の値を持たせ、「見えている」「隠れているが位置は推定できる」「画像外」を区別します。この区別をガイドラインに書かずに始めると、ある作業者は隠れた手首を推定して打ち、別の作業者は打たずに飛ばすため、同じデータに別々の正解が生まれやすくなります。

用途は、作業動作の分析、スポーツのフォーム評価、転倒検知、表情や視線の推定などです。1点あたりの単価は低くても、1人あたり17点を打てば対象物1つの費用はバウンディングボックスを上回ります。点の数を増やすかどうかは、後段で計算する角度や距離に本当に必要かで判断してください。

ポリライン:車線・配管・ひび割れなど線状の対象

閉じない折れ線で対象を表現します。道路の車線、電線、配管、コンクリートのひび割れのように、幅より長さが意味を持つ対象に使います。矩形で囲むと背景が9割を超えるため、こうした対象では最初からポリラインを選びます。

線の引き方は、始点と終点の決め方、分岐したときの扱い、途切れた線をつなぐかどうかで判断が割れます。ひび割れの点検データでは、短い線を対象に含めるか、どの程度の途切れまで同じ線としてつなぐかを、画像例とともに決めておくと作業者間のずれが小さくなります。

3Dキューボイド:奥行きを含む位置と向き

対象物を3次元の直方体で囲み、中心座標・寸法・回転角を持たせます。単眼カメラの画像に対して奥行きを推定して付ける場合と、LiDARの点群データに対して付ける場合があります。自動運転やロボットの周辺認識のように、距離と向きが判断に直結するタスクで使われます。

点群を対象にする場合は、作業環境の要件(GPU、表示性能)とツールの対応状況を先に確認してください。詳しくは3Dアノテーションとは?種類や方法、活用例・課題を解説で扱っています。

5. 画像分類と属性タグ:囲まずに付ける情報

対象を囲まずに情報を付ける方法もあります。費用が最も安く、見落とされがちですが、要件によってはこれで足ります。

画像分類:画像全体に1つのクラス

画像1枚に対してクラスを1つ(または複数)割り当てます。位置の情報は持ちません。

  • 製品写真の良品・不良品判定(欠陥の位置は不要で、合否だけが要る)
  • 投稿画像のカテゴリ分け
  • 撮影条件の仕分け(屋内・屋外、昼・夜)

1枚5〜10円と最も安く、作業も速く進みます。ただし位置が分からないため、「不良と判定した根拠がどこか」を人が確認する運用には向きません。検査工程で確認作業が発生するなら、バウンディングボックスまで上げたほうが全体の工数は下がります。画像分類の手順とモデル選定は画像分類とは?AIモデルや作成フロー、活用例、注意点を解説にまとめています。

属性タグ:手法を変えずに情報量を増やす

矩形やポリゴンに、クラス以外の項目を追加する方法です。バウンディングボックスに「遮蔽あり/なし」「切れている/全体が見えている」「向き(正面・側面・後方)」といった属性を持たせます。

追加の作業は選択肢を選ぶだけなので、対象物1つあたり2〜3秒で済みます。それでいて、学習時に難しいサンプルを重み付けしたり、評価時に「遮蔽ありのケースだけ精度が低い」と切り分けたりできます。ポリゴンに切り替える前に、属性タグで足りないかを検討すると、費用を抑えたまま精度改善の手がかりを増やせます。

属性の選択肢は、後から増やすと過去分の付け直しが発生します。設計時に、モデルの誤り分析で見たい切り口を先に洗い出してください。ガイドラインへの書き方はアノテーションガイドラインの作り方で扱っています。

6. タスクから手法を決める順序

手法を選ぶときは、対象物の見た目から入らず、AIの出力から逆算します。順序は次の5段階です。

AIの出力に必要な情報から始め、後段の計算、矩形内の背景比率、個体の区別、精度と予算の順に判断して、画像分類・バウンディングボックス・ポリゴン・セグメンテーション・キーポイント・ポリライン・3Dキューボイドのいずれかへ振り分ける選定フロー

  1. AIが返す答えは何か。 例えば欠品検知なら、有無だけを通知するのか、補充する場所まで示すのかで、必要な情報が変わります。
  2. その答えを受け取った後、システムは何を計算するか。 傷の有無を判定するなら画像分類が候補ですが、面積で等級を判定するなら輪郭の情報が必要です。
  3. 対象物は矩形で近似できるか。 実際の画像に矩形を描き、背景が占める割合を確認します。背景が半分を超えることを目安に、対象の形に合う手法を検討します。
  4. 同じクラスの個体を区別する必要があるか。 接している部品を1個ずつ区別し、形も記録するなら、ポリゴンやインスタンスセグメンテーションを検討します。
  5. 精度要件と予算・納期が釣り合うか。 少量のデータで作業時間と品質を確かめ、全件での実施が難しければ7章の組み合わせを検討します。

タスク別の対応表

やりたいこと必要な情報手法
画像が何に該当するかを判定するクラス画像分類
対象物の位置と個数を取るクラスと位置バウンディングボックス
対象物の形状や面積を計算する輪郭ポリゴン
画像全体を領域で塗り分ける全画素のクラスセマンティックセグメンテーション
同じクラスの個体を区別して形も取る画素と個体IDインスタンスセグメンテーション
姿勢や動作、部位の位置を推定する特徴点の座標キーポイント
車線・配管・ひび割れなど線状の対象を追う線の経路ポリライン
距離や向きを含む3次元の位置を取る3D直方体3Dキューボイド

複数の手法を1つの案件で併用することもあります。自動運転向けのデータでは、車両と歩行者をバウンディングボックス、車線をポリライン、走行可能領域をセマンティックセグメンテーションで付ける、といった構成が一般的です。この場合、手法ごとに作業者のスキルもツールの設定も変わるため、工程を分けて見積もります。

7. 工数を抑えて精度要件を満たす組み合わせ方

必要な手法が決まっても、全件を最も細かい手法で作業すると予算に収まらないことがあります。実務では、次の4つで折り合いをつけます。ただし、アノテーション費用が下がっても、モデルの開発・運用工数が増える場合があります。学習方法や推論時の処理速度も含めて、採用する組み合わせを判断してください。

矩形での検証、誤り分析、必要な範囲への輪郭の追加を、学習・推論の構成に合わせて判断し、開発・運用を含む総工数を確認する流れ

学習・推論の構成に合わせて、クラスごとに手法を分ける

学習・推論の構成が対応できる場合は、形状が必要なクラスをポリゴン、それ以外を矩形に分ける方法があります。アノテーション費用を抑えられる一方、学習方法の調整や複数モデルの運用が必要になる場合もあります。特にリアルタイム用途では、処理全体への影響を確認してください。

先に比較の基準になるモデルを作り、誤り分析で手法を見直す

必要な出力や精度を検証する段階では、まず矩形で検出モデルを作り、誤りを分析する方法があります。ただし、最初から輪郭や面積が必要と分かっている場合は、その出力に対応するモデルとアノテーションで検証を始めます。

比較の基準になるモデル(ベースライン)の誤りを分析し、撮影条件の見直しやデータの追加で改善できるか、手法の変更が必要かを判断します。これにより、全件をポリゴンで作った後に、必要だったのは撮影条件の追加だと分かるような手戻りを減らせます。

自動下書きと人手修正を組み合わせる

学習済みモデルや領域分割モデルで下書きを作り、人が修正する進め方です。輪郭系の作業では効果が出やすく、条件が合えば作業時間を3〜5割減らせます。

ただし、下書きの質が低いと逆効果になります。修正のほうが手間になる、下書きの誤りに引きずられて見落としが増える、という2つが起きるためです。導入するなら、対象データで数百件の試行をして、下書きありとなしで作業時間と、作業者どうしの判断が一致する割合(一致率)を比べてから、全件へ広げるかを決めてください。ツールの自動化機能の比較はアノテーションツール主要6製品比較で扱っています。

対象の最小サイズと対象外条件を数値で決める

どの手法でも工数削減につながるのが、作業範囲そのものを絞ることです。「30ピクセル未満の対象物は付けない」「遮蔽率7割を超えたら対象外」のように、対象とするかどうかの境目になる数値(閾値)を決めると、判断に迷う時間と、作業者ごとのばらつきの両方が減ります。

閾値は、モデルが実際に検出できる下限と、業務上の必要性から決めます。学習時に小さすぎる対象物を含めると、誤検出が増えて全体の精度が下がることもあります。閾値の決め方と、決めた内容のガイドラインへの落とし込みは画像アノテーションのやり方もあわせて参照してください。

8. まとめ

画像アノテーションの手法選びは、対象物をどこまで細かく囲むかの問題ではなく、AIの出力を受けたシステムが何を計算するかの問題です。面積を出さないなら輪郭は要りませんし、位置を人が確認しないなら画像分類で足ります。

自社の案件で迷っているなら、まず「AIの出力を受け取った次の処理」を一文で書き出してください。そこに面積・距離・角度・個数のどれが出てくるかで、6章のフローはほぼ一意に決まります。そのうえで予算に収まらなければ、必要な精度を満たせる範囲で、手法や作業の進め方を見直してください。

Nextremerでは、手法の選定と単価の試算、パイロットでの工数検証、ガイドライン設計から実作業・検品までを一貫して支援しています。データアノテーションの全体像はデータアノテーション完全ガイドで、教師データ作成のご相談はデータアノテーションサービスをご覧ください。

執筆者

  • 喜多 俊之

    喜多 俊之

    株式会社Nextremer 取締役CTO

    2013年に東北大学大学院理学研究科を修了後、三井情報株式会社へ入社。SI部門やR&D部門のエンジニアとして、時系列予測やデータ分析、機械学習に携わる。2017年より大手メーカーのグループ企業にて機械学習エンジニアとして幅広い業種・規模のシステム開発に参画。2019年より現職にて画像認識や対話システムなど機械学習システムの開発を担うR&D部門にてマネージャーを務める。

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