RAGとは?仕組みや機能、導入手順・活用事例・注意点を解説!

近年、GPTシリーズをはじめとするLLMの発展は著しく、人間が行う会話のような柔軟な文章生成から、専門的な論文やレポートの作成に至るまで適用範囲を飛躍的に拡大しています。
その一方で、大量のデータを効率的に利用しつつ、最新かつ正確な情報を提供する方法が課題として挙げられています。こうした中で注目を集めているのが「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」です。
しかし、「具体的にどのような仕組みで動いているのか」「どのようにビジネスに活用できるのか」など、疑問を持つ方も多いでしょう。
そこで本記事では、RAGの基本的な仕組みや活用のメリット、実装のプロセス、最新の事例をわかりやすく解説します。
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1.RAGとは?

RAGとは、生成AIであるLLMの生成能力と外部データベースの情報検索技術を組み合わせた技術です。
従来の生成AIは、虚偽情報を生成してしまうハルシネーションという致命的な課題があります。RAGは、LLMのハルシネーションを解決するために設計されている点が大きな特徴です。
具体的には指定された外部ソースの中から回答に必要な情報を検索し、検索した情報をもとにLLMが回答を生成する仕組みとなっています。この仕組みにより、回答の根拠を示し、生成された回答が情報に裏打ちされた「事実」に基づくことを実現します。
仕組み
RAGは、以下2つのプロセスを経て回答を生成します。
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まず、検索プロセスではユーザーからの質問や入力内容をもとに、関連性の高い情報を文書データベースやWeb、ナレッジベースなどから迅速に最新かつ信頼性の高い情報を取得します。
次に、生成プロセスにおいて取得した情報をもとに回答を生成します。生成プロセスでは、情報検索結果のみをLLMへ入力するのではなく、ユーザーの入力も渡します。そのため、従来の検索システムでは難しかった、ユーザーのニーズによりマッチした具体的かつ正確な回答の提供を可能としています。
ファインチューニングとの違い
RAGとよく比較されるのが「ファインチューニング」です。ファインチューニングとは、一言でまとめると、AIモデルのパラメータを調整する技術です。どちらも生成AIの精度向上に役立つ技術ですが、柔軟性やハルシネーションの度合いなど特徴が大きく異なります。
以下の表で、それぞれの特徴を比較しましょう。
RAG | ファインチューニング | |
概要 | 外部データベースから情報を検索し、その内容をもとにAIが回答を生成する仕組み | AIモデルに新しいデータを使って再学習を行い、特定のタスクやドメインに最適化する手法 |
柔軟性 | データベースの更新だけで最新情報に対応 | 新しいタスクやドメインに特化するには毎回再学習が必要で、柔軟性は低い |
ハルシネーション | 検索結果に基づいて回答するため、事実誤りを減少させやすい | 学習データが不完全だとハルシネーションが発生しやすい |
主な活用シーン | 知識が頻繁に更新されるタスクや、専門的な情報の検索を要する場面 | 企業固有のタスクや特定分野に完全に最適化された回答が求められる場面 |
上記の表より、RAGとファインチューニングは、情報取得のために再学習が必要になるかどうかが大きな違いと言えます。それぞれを活用する際には違いを踏まえて、用途や情報更新の必要性などに応じて選択すると良いでしょう。
2. RAGがビジネスにもたらすメリット

RAGのメリットについて、LLMや従来型の検索システムと比較しながら紹介します。
社内データの活用拡大
LLMは学習データを基に回答を生成します。そのため、学習データに企業の機密情報を含める場合、データが意図せずに外部漏えいするリスクが懸念されます。
一方、RAGは学習データに依存せず、社内データベースから動的に情報を取得する仕組みです。そのため、機密情報が外部に流出するリスクを最小限に抑えることができます。
これまで情報漏えいリスクがネックとなり活用が難しかった機密性の高いデータも安全に活用でき、生成AIの応用範囲を大きく拡大できます。
高精度・最新データに基づいた回答
RAGは、検索プロセスによって関連情報を検索して収集し、その情報をもとに生成モデルが回答を作成する仕組みです。この仕組みにより、従来のLLMが陥りがちなハルシネーションの発生を抑えることができ、より正確で詳細な回答を得られます。
そのため、薬機法など法律が絡むような専門的な質問を含むFAQシステムなど、確度の高い情報が求められるビジネスシーンにおいても活用できる可能性があります。
また、RAGはWeb情報や専門文書などの外部データソースの検索結果から回答を生成するため、常に最新の情報を反映した回答を提供できます。
学習データの更新コスト削減
LLMや従来型の検索システムを社内のFAQなどに利用する際には、高頻度でのデータ更新が必要です。そのため、特に情報が頻繁に変化する環境では、担当者にかかる大きな負担やシステム更新に要する時間が課題となります。
一方、RAGはデータベースの更新作業のみで情報を更新できるため、LLMのようにモデル自体の再学習を必要としません。そのため、データ更新にかかるコストを大幅に削減できます。
3.RAGの実装プロセス

ここでは、RAGを実装するプロセスを紹介します。RAGを効果的に活用するためには、導入の初期段階でデータ処理と環境構築を行うことが特に重要です。
データの前処理
RAGの性能を大きく左右する重要な工程が、データの前処理です。データの前処理とはデータを整理・整備する作業のことで、RAGの場合には以下の処理が必要です。
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アノテーションにより、非構造化データを構造化し、AIが理解しやすい形式に変換します。適切なアノテーションにより、RAGシステムの検索プロセスが効率化され、関連性の高い情報を素早く特定できるようになります。
アノテーションの詳細は、以下記事をご覧ください。
「テキストアノテーションとは?種類や自然言語処理で重要な理由、活用例・注意点を解説!」
検索システムの構築
RAGの導入には、効率的な検索システムの構築が重要です。この段階では、関連情報を迅速かつ正確に取得するための検索エンジンを選定し、高速な検索が可能なシステムを導入します。
検索システムはRAGの基盤とも言え、検索システムの性能が回答精度や処理速度に直接影響を与えるため、慎重に選定する必要があります。
生成AIとの統合
RAGシステムの核となるプロセスは、LLMとの統合です。このプロセスで行う作業は以下です。
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まず、GPTシリーズやClaudeなど数多くあるLLMの中からモデルを選択し、検索システムと連携させます。選定の際にはタスクに適したモデルを選ぶことで、回答精度を向上させることが可能です。
システムのテスト・評価
導入後には、RAGシステムが適切に動作しているかを確認するためのテストと評価が必要です。
まず、テストではエラー発生条件や無回答となる状況を洗い出すために、実際の入力データを用いてシステムの動作を確認します。現実的な利用シナリオを想定し、多様な質問や問い合わせを入力することで、システムが正確に情報を検索し、適切な回答を生成できるかを評価します。
そして、回答の精度や検索速度、ユーザー満足度を評価し、改善点があれば調整します。
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4. RAGの活用事例

RAGを導入することで、業務効率化や生産性向上を実現している企業も増えてきています。ここでは、RAGの活用事例を紹介します。
問い合わせ対応の効率化に成功(稲葉製作所)
株式会社 稲葉製作所では、商品ラインナップや営業所の増加に伴い、取引先からの問い合わせが増大・多様化していました。特に営業の現場では、顧客からの質問に即答する必要があったことから、営業社員が開発部門にその都度電話で問い合わせる状況が発生し、営業部門と開発部門の双方に業務負担がかかっていました。
こうした課題を解決するためにネオス株式会社が開発した企業向けRAGシステム「OfficeBot」を導入しました。
導入後、営業社員は外出先でもスマートフォンからOfficeBotにアクセスし、顧客からの質問に対して迅速に回答を得られるようになりました。その結果、営業社員一人ひとりの電話回数が減り、業務の効率化に成功しています。
社内ナレッジを有効活用(味の素)
味の素冷凍食品株式会社では、食品業界で生成AIの活用事例が増えていることを背景に、セキュリティの高い環境でChatGPTを利用する方法を検討していました。同時に、社内から蓄積された膨大なデータを効率的に活用したいというニーズの高まりも、ChatGPTの社内活用を後押ししました。
味の素冷凍食品は、新たに導入したセキュアな環境でAIを活用できる株式会社ナレッジセンスのRAGシステム「ChatSense」を用いて、新人社員のサポートを目的としたシステムを構築しました。
その結果、社内に蓄積されたノウハウが効果的に掘り起こされ、生産性の向上に成功しました。
5. RAGを実装する際の注意点

RAGを実装する際の注意点と対策の例を紹介します。
高品質なデータが必要
RAGの精度は、使用されるデータベースの品質に大きく依存します。例えば、古いマニュアルや不完全な文書が検索対象に含まれると、不適切な回答が生成されることもあります。
そのため、RAGを導入する際には、事前準備としてデータの前処理が必要です。
特にアノテーションは、RAGの精度向上において非常に重要な作業です。データに適切なラベルを付けることで検索精度が向上し、関連性の高い情報へ迅速にリーチできます。
ただし、アノテーションには多くの時間と労力が必要になるため、社内リソースだけで対応が難しい場合には、アノテーションの専門企業への外部委託が効果的です。専門企業へ任せることで、データ品質を確保しつつ、社内リソースの負担を軽減できます。
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応答速度が遅い
RAGは検索と生成の2段階プロセスを経るため、処理に時間がかかります。
そのため、チャットボットのような即時応答が求められるアプリケーションなど、ユーザーがリアルタイム性を期待する場面では応答遅延がストレスとなり、ユーザー体験の低下を引き起こす可能性があります。
特に、大量データを対象にした検索クエリでは検索プロセスに時間がかかり、即時回答が難しくなる場合もあるため、検索システムの最適化や生成AIの最適化のような対策が必要です。
これらの対策により、よりスムーズな応答が期待できます。
情報漏えいのリスクに備える
RAGは外部データや企業内部の機密データを利用するため、情報漏えいや不正アクセスのリスクが伴います。
特にクラウドベースのシステムを利用する場合には、セキュリティ対策が不十分だと企業の機密情報の流出リスクが高まります。データの暗号化やアクセス制御などの対策を実施する必要があります。
6.まとめ
RAGは、ソース検索によって正確な回答を生成することで、ビジネスシーンにおける生成AIの活用を進めるツールです。
LLMが抱えるハルシネーションを解決する手段として、必要不可欠な技術となりつつあります。そのため、現在生成AIの導入が急速に進む中で、カスタマーサポートやITサポート、社内FAQなど多岐にわたる用途で活用が広がっています。
実際に導入している企業の中には、RAGの柔軟性と回答精度の高さが業務にマッチし、業務効率化や生産性向上に成功している企業も少なくありません。
ただし、RAGの導入効果を高めるためには、テキストアノテーションをはじめとする正確な前処理が重要です。高品質なデータを用意することでRAGの正確性を向上させ、導入を成功に導きましょう。
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