データラベリングとアノテーションの違い|意味の整理と発注時の言葉選び

データラベリングとアノテーションの違い|意味の整理と発注時の言葉選び

発注側が「ラベリング」と書いて依頼した作業を、受注側が「アノテーション」として見積もり直すことがあります。逆に「アノテーション」で依頼したところ、想定より広い工程を含んだ見積もりが返ってくることもあります。二つの言葉はほぼ同じ意味で使われていますが、指している作業の範囲が人によって違うためです。

この記事では、データラベリングとデータアノテーションの定義を確認したうえで、粒度・対象・工程の3つの軸で違いを整理します。後半では、国内と海外、ツールと発注書でどの言葉が使われているかを見たあと、発注時にどちらの言葉を選ぶべきか、そして言葉より先に決めておくことを説明します。アノテーション全体の工程や種類はデータアノテーション完全ガイドにまとめています。

1. ラベリングとアノテーション、それぞれの定義

データラベリングとは

データラベリング(data labeling)は、データの1件ごとに、あらかじめ決めた分類のラベルを付ける作業です。画像に「犬」「猫」と付ける、問い合わせメールに「返金」「配送遅延」と付ける、音声に話者の属性を付ける、といった作業が典型です。ラベルは選択肢の中から選ぶことが多く、1件に1つ、または複数を付けます。

つまり、「このデータは何か」を判断し、ラベルを付ける作業です。データのどこに何があるかは問いません。

データアノテーションとは

データアノテーション(data annotation)は、AIの学習や評価に使えるように、データに正解となる情報(注釈)を付ける作業全般を指します。分類ラベルを付けることも含みますが、それだけではありません。対象物の位置を矩形で囲む、輪郭を画素単位でなぞる、文章中の固有名詞の範囲と種類を指定する、音声の発話区間と書き起こしを対応づける、といった作業も含みます。

このように、データが何かを示すだけでなく、対象の位置や範囲、対象同士の関係なども情報として付け加えます。

二つの言葉の関係

定義のうえでは、ラベリングはアノテーションの一部です。分類ラベルだけを付けるアノテーションがラベリングだと考えると整理しやすくなります。

データアノテーションがデータラベリングを含む包含関係を示す図。ラベリングは「何か」に答える分類ラベルの付与で、アノテーションはそれに加えて「どこに」「どの範囲で」「どういう関係で」に答える位置・領域・関係の情報付与まで含むことを示す

ただし、この包含関係を意識して言葉を使い分けている人は多くありません。第3章で見るように、実務では同じ作業を人や組織によって違う言葉で呼んでいます。定義を知っておく意味は、相手がどちらの言葉を使っていても、指している作業の範囲を確認できるようになることにあります。

2. 何が違うのか:粒度・対象・工程の3つの軸

定義の違いは、粒度・対象・工程の3つに分けると具体的になります。この3つは、見積もりの単位、必要なツール、含まれる作業の範囲にそれぞれ対応しています。

粒度:データ1件に1つか、データの中に複数か

ラベリングの成果物は、データ1件に対するラベルです。画像1万枚なら1万行の表になり、ファイル名とクラス名の2列で表せます。見積もりの単位も「1件あたり」で済みます。

アノテーションでは、データに含まれる対象物や区間ごとに情報を付けます。1枚の画像に車が5台あれば5つの矩形と座標が付き、1本の音声に発話が30回あれば30の区間が付きます。成果物は座標や時刻を含む構造化データになり、見積もりの単位は「1件あたり」から「1対象物あたり」「1領域あたり」に変わることが多いです。同じ1万枚でも、1枚に写る対象物の数で工数が数倍変わります。

対象:分類だけか、位置・範囲・関係まで含むか

タスクごとに、付ける情報と呼ばれ方の傾向を整理すると次のようになります。

タスク付ける情報呼ばれ方の傾向
画像分類画像1枚ごとのクラス名ラベリングともアノテーションとも呼ぶ
物体検出対象物ごとの矩形座標とクラスアノテーション
セグメンテーション画素単位の領域とクラスアノテーション
テキスト分類・感情分析文書1件ごとのカテゴリラベリングと呼ぶことが多い
固有表現抽出文中の該当範囲と種類アノテーション
音声の書き起こし発話区間とテキストアノテーション(「書き起こし」とも呼ぶ)

画像分類と物体検出の違いは、画像分類の解説とバウンディングボックスの解説で詳しく扱っています。分類だけのタスクはラベリングともアノテーションとも呼ばれますが、位置や範囲を指定するタスクはアノテーションと呼ばれることが多いです。

工程:作業そのものか、設計と検品を含む工程全体か

ラベリングは、ラベルを付ける作業そのものを指すことが多い言葉です。アノテーションは、作業だけでなく、何を正解とするかを決めるガイドラインの作成、少量で試すパイロット、作業後の検品、修正までを含む工程全体を指すことがあります。特に外注の文脈では、この広い意味で使われる場面が目立ちます。

工程の含み方の差は、見積もりの差として現れます。ガイドライン作成と検品を含むかどうかで、同じ件数でも金額は変わります。ガイドラインの作成手順はアノテーションガイドラインの作り方で解説しています。

3. 実務での使い分けと呼称の実態

国内では「アノテーション」、英語圏では「labeling」が多い

日本のAI開発受託会社やアノテーション代行会社は、サービス名にも記事にも「アノテーション」を使うことが多いです。一方、英語圏ではツール名やサービス名に labeling が多く使われています。Label Studio や Labelbox はツール名にそのまま入っており、Amazon SageMaker Ground Truth では作業単位を labeling job と呼びます。こうしたツールの日本語ドキュメントや翻訳記事では「ラベリング」の表記になるため、国内でも技術者の間ではラベリングという言葉が使われます。

つまり、英語圏で labeling と呼んでいる作業には、矩形や輪郭を付ける作業も含まれています。第1章の定義どおりに「ラベリングは分類だけ」と受け取ると、相手の意図とずれることがあります。

関連する言葉:教師データ作成、タグ付け、正解付け

同じ場面で使われる言葉がほかにもあります。

  • 教師データ作成:成果物から見た呼び名です。ラベルを付ける作業だけでなく、データの収集や選別、分割まで含めて使われることが多いです
  • タグ付け:人があとから探したり整理したりするためにキーワードを付ける作業を指すことが多く、AI学習用のラベルとは目的が違います。自由記述のタグは選択肢が決まっていないため、そのままでは学習に使えないことがあります
  • 正解付け・正解データ作成:モデルの評価に使う正解(ground truth)を用意する文脈で使われます。作業内容はアノテーションと同じです

これらは呼び名が違うだけで作業が重なっている場合と、目的が違うため成果物も違う場合があります。タグ付けは後者に当たることが多いので、依頼内容がタグ付けとして伝わっていないかは確認しておきたい点です。

同じ会社の中でも呼び名が分かれることがある

一つの企業の中でも、部署によって言葉が違うことがあります。データサイエンティストは論文やツールに合わせて「ラベリング」と言い、事業部門は外注先に合わせて「アノテーション」と言う、という状況です。呼び名が違うこと自体は問題ではありません。問題になるのは、呼び名の違いに隠れて、想定している作業の範囲が食い違っていることに気づかないままプロジェクトが進む場合です。

4. どちらの言葉で発注すべきか

国内の外注先に依頼するなら、「アノテーション」で通じます。海外のベンダーに英語で依頼するなら data labeling でも data annotation でも通じます。ただし、どの言葉を選ぶかより、依頼内容を作業仕様として書いておくことのほうが重要です。理由は、呼び名の違いが見積もりの差として表れる場面があるためです。

呼び名の食い違いが見積もりの差になる事例

次のようなずれは、発注の初期段階で起こることがあります。

「ラベリング」と書いた依頼が、分類だけの作業として見積もられる。 発注側は物体検出用に矩形を付けてほしかったのに、受注側は1枚1ラベルの画像分類として単価を出していた、という場合です。矩形付きの単価は分類のみの単価より高くなることが多いため、正式見積もりの段階で金額が大きく変わります。

「アノテーション」と書いた依頼に、ガイドライン作成と検品を含む見積もりが返ってくる。 発注側はすでに社内でガイドラインを作っており、作業だけを頼むつもりだった場合、工程が重複します。含めるべき工程を伝えていないと、受注側は工程全体を提案することがあります。

英語圏のベンダーに annotation と書いたところ、属性や関係の付与まで想定される。 英語圏では labeling が広く使われるため、あえて annotation と書くと、矩形だけでなく属性や対象物どうしの関係まで付ける依頼だと受け取られることがあります。

いずれも、言葉の選び方が原因のように見えますが、実際には付ける情報の種類と工程の範囲を書いていなかったことが原因です。

言葉より先に伝えておく5項目

依頼文にどちらの言葉を使う場合でも、次の5項目を書いておくと、受注側は同じ作業を想定できます。

  1. 対象データと件数:データの形式(画像・テキスト・音声・動画・3D)、件数、1件あたりの長さやサイズ
  2. 付ける情報の種類:分類ラベルだけか、位置(矩形)、領域(輪郭)、範囲(テキストのスパン)、属性、関係まで含むか、クラスの一覧と数
  3. 出力形式:CSV、JSON、COCO 形式など、納品データの形式と、使うツールの指定があるか
  4. 工程の範囲:ガイドライン作成、パイロット、本作業、検品、修正のどこからどこまでを依頼するか
  5. 品質基準:作業者間の一致率や検品の合格ラインをどう決めるか、誰が最終判断するか

この5項目は、そのまま見積もりの前提条件になります。費用がどの項目で変わるかはアノテーション費用の見積もり方で、工程のどこまでを外注するかの判断はアノテーションの外注と内製の比較で扱っています。

社内の呼び名を揃える

プロジェクトの中で言葉を統一するなら、ガイドラインの冒頭に定義を1〜2行で書いておくのが簡単です。たとえば「本プロジェクトでは、ラベル付け作業と検品を合わせてアノテーションと呼ぶ。クラス名をラベルと呼ぶ」といった書き方です。用語を決めておくと、進行中の会話や修正依頼で、どの作業を指しているかを毎回確認する手間が減ります。

5. まとめ

データラベリングは、データ1件に分類ラベルを付ける作業を指し、データアノテーションは位置・領域・関係の情報付与まで含む、より広い言葉です。定義のうえではラベリングはアノテーションの一部ですが、実務では国内が「アノテーション」、英語圏が「labeling」と分かれており、同じ作業を違う言葉で呼んでいる場面が多くあります。

発注時は、国内なら「アノテーション」で通じます。ただし、呼び名を選ぶことより、付ける情報の種類、工程の範囲、出力形式、品質基準を依頼文に書いておくことのほうが、見積もりのずれを防ぐうえで役立ちます。言葉の違いに気づいたときは、相手がどの範囲の作業を想定しているかを確認する機会だと考えてください。

アノテーションの種類、ツール、外注の進め方など全体像は、データアノテーション完全ガイドに戻って確認してください。

執筆者

  • 喜多 俊之

    喜多 俊之

    株式会社Nextremer 取締役CTO

    2013年に東北大学大学院理学研究科を修了後、三井情報株式会社へ入社。SI部門やR&D部門のエンジニアとして、時系列予測やデータ分析、機械学習に携わる。2017年より大手メーカーのグループ企業にて機械学習エンジニアとして幅広い業種・規模のシステム開発に参画。2019年より現職にて画像認識や対話システムなど機械学習システムの開発を担うR&D部門にてマネージャーを務める。

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