自動車の自動運転を実現する技術として有名な技術がLiDARです。しかし、LiDARはその精度から、自動車業界以外でも活用が進んでいるのはご存じでしょうか。
身近な技術となりつつあるLiDARですが、具体的な活用方法や導入手順は分からない方も多いのではないでしょうか。LiDARは今後さらに普及すると予想されていて、仕組みや課題などを理解しておく必要があります。
この記事では、LiDARの仕組みや活用事例、課題、導入手順について解説します。LiDARが分からないという方でも、概要から導入の流れまで理解できるようになるので、ぜひ参考にしてみてください。
LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)とは、レーザー光を利用して物体との距離や形状を測定するセンサー技術です。カメラによる撮影と異なり、LiDARはレーザーパルスを対象物に照射し、その反射光をセンサーで受け取ることで、対象物までの距離を計測します。
レーザーパルスは高速で移動するレーザー光であり、短い時間で対象物までの距離を測定することが可能です。周囲の環境を高密度な点群データとして取得できますので、高精度な3D測定ができます。
従来の測量技術と比べて広範囲のデータを短時間で収集できるため、作業効率が大幅に向上します。また、リモートセンシング技術として、アクセス困難な地域でも安全にデータを取得することが可能です。
LiDARは地形データの取得や都市計画、環境モニタリングなど、広範囲にわたる測定でも利用されています。
LiDARの進化は、さまざまな産業に革新をもたらしており、特にAIとLiDARを組み合わせた自動認識技術は、自動運転には不可欠の技術として開発が進められるなど、新たな応用分野が広がっています。自動運転技術の実現は、LiDARの精度に左右されると言われるほどです。
LiDARは、高精度な距離測定技術により、以下のようなデータを計測することが可能です。
LiDARの基本的な機能は、対象物までの距離の測定です。レーザーパルスを発射し、対象物に反射して戻ってくるまでの時間を計測し、そのデータを反射強度や3D座標、動的オブジェクトの測定に活用します。
反射強度は対象物の材質や表面状態の測定に効果的で、例えば道路の表面や植生の種類を判別する際に役立ちます。3D座標データは地形や建物、その他の構造物を立体的にマッピングするために利用され、都市計画やインフラ整備、災害対策などで重要な役割を果たします。
また、移動中の車両や歩行者など、動的オブジェクトの位置や速度をリアルタイムで計測することも可能です。これらの計測データは自動運転技術に不可欠です。
LiDARで計測できるこれらのデータは、さまざまな分野で活用されます。
LiDARによる測定方式には、TOF方式とFMCW方式の2つがあります。それぞれの方式には特徴があり、用途に応じて適切な方法を選ぶ必要があります。
TOF(Time of Flight)方式は、レーザーパルスを対象物に発射し、その反射光がセンサーに戻ってくるまでの時間を計測する測定方法です。短いレーダーパルスを使用していて、高精度な距離測定が可能です。
また、短時間で多くのデータポイントを取得できるため、リアルタイムでのデータ処理に適しています。自動運転やドローン、測量などのさまざまな分野で使われている、LiDARの一般的な方式です。
FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式は、連続的に周波数が変化するレーザーを発射し、その反射光の周波数シフトを測定する測定方法です。測定された周波数シフトを基に、距離を計算します。
FMCW方式では周波数の変化を高精度で測定するため、対象物との距離を正確に測ることが可能です。また、TOF方式に比べて周辺環境の影響を受けにくく、雨や霧などの天候でも反射して届けられた光を識別できます。
TOF方式とFMCW方式はレーダーの種類が異なり、それぞれに違いがあります。どちらの方式を使用するかは、用途や環境に応じて選ぶことが重要です。最適な方式のLiDARを活用することで、最大効果を引き出せます。
LiDARは3Dデータを測定する技術ですが、そのデータを元にAIで自動認識するためにはLiDARデータに対するアノテーションが不可欠です。アノテーションとは、取得したデータに対してラベル付けを行い、データの意味を明確にする作業です。
取得したLiDARデータは膨大であり、大量の点群データを生成します。ラベリングがされないと有効なデータとして活用できません。例えば、自動運転を実現するには道路状況を正確に測定する必要があり、アノテーションにより、AIがより正確に物体を認識し、適切な判断を下すことができます。
そのため、LiDARの活用にはAIの機械学習モデルによるトレーニング、データ管理の効率化、測定精度の向上が必要になります。高品質なアノテーションを行うことで、LiDARを活用した自動認識の精度向上を実現することができるようになります。
アノテーションの精度が認識精度に直接影響するため、重要な工程と言えます。LiDARの導入を検討する際は、LiDARデータに対応したアノテーションツールや会社を活用するのがおすすめです。
LiDAR技術は、主に以下のような場面で活用されています。
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それぞれの活用事例について見ていきましょう。
近年技術開発が進む自動運転において、LiDARは不可欠な技術と言えます。LiDARセンサーは、車両の周囲環境をリアルタイムでマッピングすることが可能で、他の車両・歩行者・障害物などを正確に検知し、スムーズな運転を実現します。
現在の先進運転支援システムでは、ミリ波レーダーとカメラが活用されていることも多くあります。これらの技術では先行車や車線の検知ができるものの、形状や位置関係の検知は得意ではありません。一方LiDARでは、周囲の環境を高解像度の3Dデータとして取得でき、物体の形状や位置関係を正確に把握できます。それにより、LiDARを活用した自動認識技術では人物や物体、建物の位置関係や形状を検知し、常に変化する道路状況を正確に把握するのです。
今後LiDARが研究・開発されれば、市街地や車線のない細い道路でも自動運転が可能になるでしょう。特に、自動運転レベル3以上の高度な自動運転システムの実現には、LiDARの高精度な環境認識能力が不可欠です。
LiDARは測量やマッピング分野でも重宝されています。航空機やドローンにLiDARセンサーを搭載することで、広範囲の地形や建築物を高精度にスキャンできます。この技術により、従来の測量方法では難しかった大規模なエリアの地図作成が可能になりました。
LiDARによる3Dデータは地理情報システム(GIS)に統合され、都市計画やインフラ管理に役立てることも可能です。LiDARは、短時間で正確なデータを提供するため、測量業務の効率と精度を大幅に向上させます。このように広範囲の測量・マッピングツールとしても、LiDARは注目されています。
農地や森林の管理においても、LiDARは有効なツールとして活用されています。LiDARセンサーを搭載したドローンを利用することで、広大な農地や森林の状況をスキャンし、3Dデータを取得します。このデータによって作物の状態や育成状況、土地の地形変化などをモニタリング可能です。
農地や森林は広大な面積を誇るため、目視による管理は困難です。そのため、LiDARを活用した管理・モニタリングは人手不足を解消します。
近年ではiPhoneやiPadなどのタブレット端末にも、LiDARセンサーが搭載されるようになりました。これによって、一般ユーザーでも手軽にLiDAR技術を活用することが可能です。
例えばLiDARで室内の3Dスキャンを行い、インテリアデザインや家具の配置をシミュレーションするといった活用方法があります。不動産業界では、物件の詳細な3Dモデルを作成し、バーチャル空間を提供することで、よりリアルな物件情報や体験を提供できます。
さらに、エンターテインメントや教育分野でも活用されています。AR(拡張現実)技術とアプリケーションを組み合わせることで、現実世界と仮想空間を融合させた新しいゲーム体験を提供することも期待されています。
LiDAR技術によって、自律走行車両やロボットの開発も進められています。LiDARのレーダーが周辺環境を測定・スキャンし、車両やロボットの自律した走行をサポート可能です。
例えば、倉庫や工場内でロボットを活用する際、LiDARは高精度なナビゲーションと障害物回避を可能にします。これにより物流業務の効率化が図られ、人手不足の解消や作業の自動化を実現します。他にも、農業や建設現場といった多様な環境で活用されます。
LiDAR技術の導入には、注意すべきポイントがあります。ここでは、TOF方式とFMCW方式それぞれの注意点と、LiDAR技術の実用化に向けた課題を解説します。
特に、マルチモーダルセンサーフュージョンや深層学習アルゴリズムの活用が有望視されています。上記の技術の進歩により、将来的にはより信頼性の高い自動運転システムの実現が期待されます。
FMCW方式は周波数が変化するレーダーを照射するLiDAR技術ですが、TOF 方式に比べてコストの高さがネックとなっています。
FMCW方式の測定方法は複雑であり、周波数や信号処理の精度を高めるためのソフトウェアが必要です。また、コヒーレント検出に必要な高精度な光学部品など高性能な光学部品は高コストです。そうなると、導入するには高い初期コストがかかってしまいます。
製造コスト・導入コストはTOF方式に比べて高く、自動運転技術のように大量に用意するとなると大きな負担となるでしょう。
しかし、技術の進歩と市場の拡大に伴い、最近ではコストが下がっています。特に、自動運転車市場の成長に伴い、FMCW LiDARの需要増加が見込まれており、量産効果によるコスト低減が期待されています。また、半導体製造分野でのシリコンフォトニクスの進歩や製造プロセスの進歩により、将来的にはコスト競争力のある製品が登場する可能性が高まっています。
とはいえ現状ではまだまだ製品の普及率が低く、FMCW方式を導入するにはコスト面での課題をクリアしなければいけません。
コヒーレンス長(可干渉距離)とは、光の波が一定の位相関係を保ちながら伝播する距離を指します。このコヒーレンス長が、LiDARの精度に大きく影響し、実用化に向けた問題とされています。
コヒーレンス長が短いと、レーザー光の干渉性が低くなり、測定距離が制限されます。これにより、遠距離の物体や微細な構造を正確に検出することが難しくなります。
コヒーレンス長の問題に対処するため、以下の最新技術が研究・開発されています:
コヒーレンス長の問題は、LiDAR技術の精度と信頼性に関わります。LiDARを導入する際は、コヒーレンス長について理解しておくようにしましょう。
LiDAR技術を自社に導入するには、以下の3ステップで進めましょう。
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それぞれのステップについて解説します。
まずは、LiDARを導入する目的を明確にしなければいけません。LiDAR技術の導入が目的とならないように、どの業務に活用するのか、導入によって何を達成したいのかを決めておきましょう。
目的の最適化には、自社のリソースやLiDAR導入に伴う課題やリスクも考慮する必要があります。現実的な導入計画を立てるには、活用シーンや達成目標だけでなく、それを実現するための社内リソースの確保や課題も把握しておく必要があります。
これらの要素を踏まえてLiDARを導入する目的を最適化することで、次の製品選定がスムーズに進めることができるようになります。
LiDARの導入目的が明確になったら、メーカーの製品調査と比較を行います。LiDARシステムは高度な技術であるため、基本的には外注するのが普通です。
適切なLiDARシステムを選定するためには、各メーカーの特徴や提供する製品をしっかりと把握することが重要です。メーカーの製品調査・比較では、以下のような項目をチェックしましょう。
また、可能であればメーカーにデモンストレーションや試用を依頼しましょう。実際に製品を使ってみることで、操作性やパフォーマンス精度を確認できます。デモンストレーションを通じて、製品の使い勝手を直接比較可能です。
LiDARを導入するには、既存システムと統合しなければいけません。選定したメーカーの製品の導入における統合計画を策定することで、LiDAR技術を最大限に活用し、スムーズな運用を実現できます。
統合計画の策定は、以下のような流れで進めることができます。
基本的には、既存システムとの整合性が高い製品を導入するのがおすすめです。LiDARシステムに合わせて既存システムを変更すると、業務内容が大幅に変わってしまい、従業員が混乱する可能性があります。
また、LiDARデータのアノテーション計画は、LiDARデータを効果的に活用するために非常に重要です。アノテーションの実行、品質保証、データの統合と活用まで事前に計画することで、アノテーションの精度と効率を向上させることができます。
具体的かつ現実的な統合計画が策定できれば、それを実行して実際に導入していくことになります。
LiDARにはさまざまな活用事例があり、精度の向上や導入コストが削減されれば、さらに活用分野が広まるでしょう。そのため、LiDAR技術に興味がある方は、本記事で紹介したような方式や課題、導入手順を知識として知っておくべきです。
LiDARの導入と、それによって得られるデータをもとにした自動認識を行うにはアノテーションなどの専門技術を実務レベルで運用できる人材が必要になるため、基本的には外注するようにしましょう。
実際の導入となるとより専門的な知識が必要になりますが、まずは大まかな流れを理解することが重要です。この記事がLiDARの理解を深めるものとなれば幸いです。