数多くある画像認識の分野のなかでも、画像分類は小売店でのレジ精算やスマートフォンでの顔認証など消費者にごく近いシーンで早くから活用されてきた技術です。近年ではディープラーニング技術の発達によって、より高精度な画像分類が可能になっています。
しかし、実際にどうやって画像分類を導入すればいいか、具体的なプロセスがつかめていない企業担当者も多いのではないでしょうか。
この記事では、画像分類で活用されるAIモデルや作成フロー、導入時の注意点について紹介していきます。
画像認識については、画像認識とは?種類・仕組み・AI開発の流れ・事例・問題点を解説!で詳しく解説しています。本記事と合わせて読んで頂くと、画像認識技術についてより理解を深められるはずです。
画像分類とは、画像をコンピューターで認識し、写っている物体や特徴をあらかじめ定められたカテゴリーに自動的に分類する技術です。画像認識の手法の1つであり、画像全体を分析してカテゴライズします。
ディープラーニングを活用することで精度が向上し、現在では幅広い分野で活用されています。ディープラーニングを用いた画像分類AIモデルは、画像内の特徴を抽出し、その特徴に基づいて最適なカテゴリを決定します。
画像分類は、例えば以下のようなシーンで活用されています。
それぞれについて解説します。
画像分類技術は、品質管理や外観検査で活用されています。従来の品質管理では人間の目視による検査が主流でしたが、AIによる画像分類技術を導入することで、検査の精度や効率を向上させることが可能です。
画像分類を製品や部品の画像をリアルタイムで撮影し、AIがその画像を解析することで、傷や異常、欠陥などを正確に検出します。
画像分類で用いるAIモデルは、ディープラーニングによって大量の検査データを学習し、細かな異常にも対応できるようになります。これにより、人間の見落としを減らし、検査の信頼性が向上するだけでなく、検査速度も格段に上がります。
外観検査については「外観検査とは?手法・装置・運用方法・AIによる検査のメリットデメリットや注意点を解説!」も併せてご覧ください。
ピッキングとは、倉庫内に保管された商品を出荷指示に応じて選び出す作業を指します。ピッキング作業を自動化するために、AI技術による画像分類技術が利用されています。
例えば、カメラを搭載したロボットが倉庫内を移動し、棚にある商品の画像をリアルタイムで撮影します。AIはこの画像を瞬時に解析し、どの商品がピッキング対象であるかを分類可能です。
画像検索においても、AI技術による画像分類が活用されています。従来のテキストベースの検索と異なり、AIによる画像検索ではユーザーが入力した画像をもとに類似した画像や関連する情報を探し出します。
例えば、ユーザーが「いいね!」した画像の特徴をAIが分析し、抽出した特徴とデータベース内の他の画像を比較し、関連性の高い画像をユーザーが好みそうな画像として提示できます。これにより、テキストでは説明しにくい商品やデザインの検索が容易になります。
顔認証は、カメラで撮影した顔の画像をAIが解析し、事前に登録された顔データと照合することで個人を識別するシステムです。以下のような多様なシーンで利用されています。
不特定多数のユーザーを想定した顔認証のプロセスにおいて、ディープラーニング技術を活用した画像分類は欠かせません。
画像分類では、ディープラーニングモデルが用いられます。以下の3つが、画像分類で活用されるモデルの一覧です。
それぞれのモデルについて比較していきます。
CNN(Convolutional Neural Networks)は、画像データから重要な特徴を自動的に抽出し、高精度な分類を可能にするモデルです。「畳み込みニューラルネットワーク」とも言います。
画像分類において、長年にわたり最も一般的に使用されるディープラーニングモデルの1つです。代表的なモデルとして以下のようなものがあります。
CNNの特徴的な部分は「畳み込み層」と呼ばれる部分です。畳み込み層が画像のエッジや色の変化、パターンなどの特徴を段階的に捉え、画像内の構造を理解する役割を果たします。
CNNの大きな利点は、入力画像全体を一度に解析するのではなく、局所的な領域を順次処理することで、画像全体の特徴を効果的に捉える点にあります。最初は単純な特徴(エッジや線)を学習し、後の層でより複雑なパターンや形状を識別します。このように多層構造での画像分類によって、顔認証や物体認識といったタスクにも対応可能です。
Googleが開発したViT(Vision Transformers)は、自然言語処理で使用されているトランスフォーマー技術(Transformers)を画像認識に応用したものです。
ViTによる画像分類は、画像を小さなパッチ(ブロック)に分割し、それぞれのパッチをトークンとして入力します。これにより、CNNのように畳み込みをしなくても、画像全体の関係性や構造を認識可能です。
ハイブリッドモデルは、CNNとトランスフォーマー(Transformers)を組み合わせたディープラーニングモデルで、画像分類において高い精度を実現します。CNNの畳み込みによる特徴抽出技術と、ViTsの認識技術を組み合わせることで、より精度の高い画像分類が可能となります。
CNNは画像内の細かいパターンやエッジを捉えるのに優れています。一方、画像の全体的な文脈やオブジェクト間の関係性を理解することに関してはViTの方が得意です。
画像分類を可能にするAIモデルを開発するには、以下の作成フローに沿って進めるのが一般的です。
それぞれについて解説します。
画像分類のAIモデルの性能は、どれだけ高品質で多様な画像データを学習しているかに大きく依存します。そのため、学習させる画像データの量と質は重要です。
まず、分類したい対象の画像を十分な量収集する必要があります。このとき、画像の解像度やサイズが統一されていると、モデルの学習がよりスムーズになります。
さらに、データの偏りを避けるために各カテゴリーの画像数をできるだけ均等に収集しましょう。例えば、犬か猫かを分類するためのAIシステムで、様々な犬種の画像ばかり準備し、猫の画像がほとんどない状態はデータが偏っているので分類精度が上がりません。
また、さまざまな条件下で撮影された画像を収集するのが理想的です。例えば、異なる背景や角度、季節によって異なる光の条件で撮影された画像を含めることで、モデルが多様な状況に対応できるようになります。
不鮮明な画像は学習精度を低下させるため、適切な前処理とクリーニングが必要です。また、データを適切に分類・整理することで、後のアノテーション作業も効率的に進めやすくなるでしょう。
このように、データの準備は時間と労力をかけて丁寧に行う必要があります。
データ収集の注意点は「アノテーションデータ収集依頼時の注意点」を併せてご覧ください。
画像のアノテーションとは、モデルが学習するために、収集した画像に正確なラベルを付ける作業を指します。画像内の対象物を特定し、それに対応するラベルを割り当てます。
アノテーション作業により、AIモデルが学習するための教師データが作成されます。教師データによって、どの画像をどのカテゴリーに分類すべきか、モデルが学習できます。
画像アノテーションの質が低いと、モデルの分類精度が低下します。また、アノテーターのスキルが不足している状態でアノテーションを行っても、高精度の画像分類は期待できないでしょう。
より複雑なタスクでは追加の情報のラベリングが必要になることもあります。例えば、物体検出も必要になる場合、対象物の位置情報をバウンディングボックス(矩形枠)で指定し、セグメンテーションでは対象物の輪郭や領域を正確に指定します。
画像分類では大量の画像データを扱うため、アノテーションの作業は非常に労力がかかります。アノテーション作業の効率を上げるためには、専門ツールを活用したり、外部に委託したりすることも検討しましょう。
アノテーション業者の選び方については「アノテーション代行会社に外注?内製する?代行業者の選び方は?外注のメリットを徹底解説!」を併せてご覧ください。
アノテーションが完了したら、画像分類AIの自社用途に応じて最適にアプローチするモデルを選択します。特に限られたデータセットしか利用できない場合には転移学習の活用が効果的です。
転移学習とは、事前に大規模なデータセットで学習済みのモデルをベースに、特定のタスクに合わせて再学習させる手法です。ゼロからモデルを構築するよりも、学習時間の短縮や高い精度を実現できます。
例えば、ResNetやVGGNetといったCNNベースの事前学習済みモデルを利用すると、データが限られている場合でも高いパフォーマンスが期待できます。ImageNetなどの大規模データセットで学習されているので、汎用的な特徴抽出能力を期待できるのです。
それらのモデルに転移学習を行うことで、特定の分類タスクに素早く適応させることが可能です。転移学習を活用すれば、計算コストや開発期間を大幅に削減しながら、実用的な精度を持つモデルを構築できます。
もちろん、タスクの性質や利用可能なデータ量によっては、転移学習以外のアプローチが適している場合もあります。
画像分類に使用するAIモデルを構築したら、特徴量の抽出と学習を行います。特徴量とは画像の中で分類に重要な情報を示す部分であり、以下のような項目を指します。
この段階では、モデルが画像から特徴量を抽出し、学習することで異なるカテゴリを識別できるようになります。
画像分類モデルの評価では、学習させたモデルに対してテストデータを使用し、どれだけ正確に画像を分類できるかを測定します。以下のような評価指標を用い、モデルの性能を総合的に判断します。
単一のテストセットだけでなく、複数のテスト手法を用いて、モデルの汎化性能をより正確に評価することが重要です。
モデルの評価で問題点が見つかった場合、次に行うのがチューニングです。チューニングではモデルのパラメータを調整したり、学習データの量や質を見直すことで分類精度を向上させます。
また、特定のデータに過剰に適応して汎用性が低下する「オーバーフィッティング」を防ぐための対策も重要です。データの分割方法や正則化手法を工夫することで、より汎用的で信頼性の高いモデルを作ることができます。
評価とチューニングを繰り返し行うことで、モデルの精度を最大限に引き上げ、実用レベルの画像分類AIモデルを構築することが可能です。
モデルの最終評価とデプロイは、機械学習プロジェクトの重要な最終段階です。この過程は以下の主要なステップで構成されます:
開発したモデルの性能を最終的に確認する段階です。学習や検証に使用していない新しいデータ(テストデータセット)を用いて、モデルの予測精度や汎化性能を評価します。
実運用環境での効率を高めるため、モデルの軽量化や最適化を行うことがあります。これには以下のような手法が含まれます。
最適化されたモデルを実際の運用環境に近い条件下でテストします。この段階では、以下の点を確認します。
AIで画像分類を行う際には、以下に注意しなければいけません。
それぞれについて解説します。
画像分類AIを導入する際は、求める精度や処理速度を明確に設定することが重要です。
確かに精度が高いモデルは、より正確に画像を分類できます。しかし、その分計算コストが増加し、処理速度が低下する場合が少なくありません。
一方で処理速度を優先し過ぎるあまりに、必要な精度に到達できなくても意味がありません。業務の内容に応じたバランスを考慮して設定することが大切です。
例えば、リアルタイムで大量の画像を処理しなければならないシーンでは、ある程度の精度を保ちながらも高速処理が求められます。逆に、精度が最優先される医療画像の診断や品質管理などでは、少しの誤差も許容されないため、速度を少し犠牲にしながらも精度の高いモデルが必要です。
AIで高精度な画像分類を実現するには、高品質な学習用の画像を入手する必要があります。画像の解像度や鮮明さ、撮影条件が完成後の画像分類システムの精度に大きく影響を与えます。
ですから、データ収集段階、またはそれより前に適切なデータ収集環境を整えることが重要です。一貫性のある高品質なデータセットは、AIモデルの学習効率と精度向上に直結します。
撮影環境においては、照明の安定化やカメラの設定などを統一するのがおすすめです。ぼやけた画像や低解像度のデータは、AIモデルが正確な特徴量を抽出しにくくなり、分類精度の低下につながります。
しかし、同時に様々な条件下(異なる角度、照明条件など)で撮影された画像を含めることも重要です。これにより、モデルの汎化性能が向上し、実環境での頑健性が増します。
特に製造業や外観検査の分野では、一定の品質を保った画像を継続して大量に提供できる体制を確保することで、AIモデルの精度が向上します。
画像分類AIの精度を最大化するためには、精度の高いアノテーションが欠かせません。アノテーション作業が正確でなければ、AIモデルは誤った情報を学習してしまい、分類精度が大幅に低下します。
特に、対象物の形状が複雑であったり、微細な違いの検出が求められる場合には、より精密なアノテーションが必要です。例えば、外観検査や医療画像などの分野では非常に細かい部分にまでラベルを付ける必要があり、わずかなミスも許されません。
アノテーション作業の効率化を図るためには、専門的なアノテーションツールの導入や信頼できる専門業者への委託が有効です。これにより、手動作業によるミスを減らし、より一貫性のあるデータセットを作成することが可能となります。
画像分類AIは、精度の高い自動化を実現し、効率化や品質向上に大きな役割を果たします。この記事で解説したように、データの準備、モデルの選定・構築、アノテーション、そして評価・チューニングといったプロセスを通じて、最適な画像分類AIを自社開発することも可能です。
開発ステップを理解し、自社に適した画像分類AIを構築することが重要になります。特に画像データの収集やアノテーションは分類精度を左右するため、アノテーション専門会社に依頼することも検討しましょう。