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生成AIは著作権侵害になる?問題になる条件・実例・対策ポイントを解説!

作成者: 株式会社Nextremer|Dec 16, 2024 5:12:26 AM

 


近年、生成AIの活用が急速に進む中で著作権に関する議論が行われ始めています。

多くの生成AIモデルは、Web上で手に入る画像や文章などを学習しています。学習データを基にしたアウトプットなので、著作権の侵害に当たる可能性があり、想定外に企業の信頼性を損なう事態も考えられます。

本記事では、著作権法をもとに、生成AIの著作権侵害になる条件や侵害事例、回避するためのポイントを詳しく解説します。生成AIの活用を検討中の経営者にとって、活用する際のリスクを理解できる有益な記事です。

 

 

【目次】

  1. 生成AIと著作権の微妙な関係とは?
  2. 【シーン別】生成AIの開発・利用で著作権問題になる条件
  3. 実際に生成AIで著作権侵害が問題になった事例
  4. 生成AIを利用する際に著作権問題を回避するためのポイント
  5. まとめ

 

 

1. 生成AIと著作権の微妙な関係とは?

 

著作権法では、著作権者の権利・利益の保護と著作物の円滑な利用のバランスが重要です。しかし、生成AIの登場により、これまでの著作権の概念が複雑化しています。

生成AIの学習過程と生成物、データの活用時には著作権に関する多くの課題が含まれます。

以下では、生成AIと著作権の関係で押さえておきたい著作権保護の対象と論点を解説します。


著作権保護の対象になる作品とは

著作権は、以下のような創作的な作品を保護するものであり、単なる事実やデータ、作風や画風などのアイデアそのものは含まれません。

著作物に含まれるもの 著作物に含まれないもの
  • 文学作品(小説やエッセイ、記事など)
  • 音楽作品:作詞や作曲された曲や楽譜
  • 舞台作品(演劇や舞踊など)
  • 美術作品(絵画や彫刻など)
  • 建築作品
  • 映画作品
  • プログラムコード
  • 単なる事実やデータ:年号や地名、人口統計のような客観的な事実
  • ありふれた表現:ごく一般的な表現や言い回し、例えば「ありがとう」などの日常的な挨拶
  • アイデアそのもの:作風や画風といった、作品の内容やスタイルを形成するアイデア自体
  • 工業製品:量産される機械や製品そのもの


上記の著作物に該当する場合には、利用方法を誤ると著作権侵害になる可能性があります。

ただし、著作物に含まれるものであっても、すべての作品が著作権侵害の対象になるわけではないため、生成AIを利用する際には対象外のものと著作物の違いを押さえておくことが重要です。

 

「類似性」と「依拠性」が論点になる

生成AIによって作られた画像や文章などの出力内容が、既存の著作物の著作権を侵害しているかどうかは、「類似性」と「依拠性」が重要な論点です。

「類似性」とは、生成物が他者の著作物と同一もしくは似通っていることを指します。さらに厳密に言うと、生成物が既存の著作物の「表現上の本質的な特徴」を直接感得できるかどうかが問題となります。

しかし、部分的な共通点があるだけでは必ずしも類似性があるとは判断されず、著作物の創作的な表現の本質が共通しているかどうかが重要となります。

一方で「依拠性」とは、生成物が他人の著作物に依拠しているかどうかです。文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」では、依拠性が認められるケースとして以下が挙げられます。

  • AI利用者が既存の著作物を認識していた:既存の著作物を直接入力したり、特定の著作物を指示したりした場合など
  • AI利用者は既存の著作物を認識していなかったが生成AIの学習データに著作物が含まれていた:ただし、技術的に出力されないよう担保されている場合は例外となる可能性


生成AIによる作品が「類似性」または「依拠性」を満たす場合、既存著作物の著作権を侵害していると判断される可能性があります。

生成AIは、学習データをもとに出力する仕組みであるため、元データとの類似性が発生しやすく、著作権侵害のリスクが高いとされています。

 

生成AIで出力した画像に著作権を主張できる?

結論からお伝えしますと、生成AIが自律的に生成した作品では、基本的に著作権を主張できません。著作権法では、著作権は以下の定義にあるように「思想や感情を創作的に表現したもの」に発生するからです。

 

著作権法における「著作物」の定義

著作物とは、①思想又は感情を ②創作的に ③表現したものであって、④文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの(参照:著作権法第2条第1項第1号

AIが生成した画像や文章、音楽は人間の感情や意図の直接的な表現ではなく、AIのアルゴリズムによって生成されたものです。そのため、上記の条件に該当しないと判断されることが一般的です。

しかし、AIの生成過程に人間が具体的な創作的寄与を行った場合には、例外的に著作権が認められる可能性もあります。以下に挙げる例のように人が積極的に関与している生成物に対しては創作的寄与が評価されることもあります。

  • 生成品の表現方法に対して詳細な指示を与えた
  • 生成物を確認しながら指示内容の試行を重ねた

ただし、AIの生成物が著作物と認められた場合でも、既存の著作物に対する「類似性」や「依拠性」が認められると、既存著作物の著作権侵害となり得るため注意が必要です。

そのため、生成AIの作品で著作権を主張する際には、「どこの部分にどの程度人の創作的寄与があるのか」や、「生成物が既存の著作物に依拠していないか」を十分に検討し、著作権侵害のリスクを避けることが重要です。

 

 

2. 【シーン別】生成AIの開発・利用で著作権問題になる条件

 

生成AIを開発する際や利用する際など、主要なシーンで著作権問題が生じる条件について、以下のシーンに分けて説明します。

  • 生成AIシステムの学習データ利用時
  • 生成AIシステムの利用時
  • 生成AIの出力を他のAIシステムの学習データとして使用する際
  • 生成AIシステムの学習データ利用時

学習データを利用する際には、生成AIモデル開発の目的が「享受」行為に該当するか否かで、著作権の侵害になるかどうかが決まります。よく勘違いされていることですが、営利か非営利かは決定要因ではありません。

享受とは、例えば動画や画像を鑑賞する行為や文章を閲読する行為など、ユーザーが知的・精神的な満足を得るための行為を指します。

AIモデル開発のために著作物を利用する場合や著作物を収集・複製する場合は、以下の著作権法第30条の4で定義される「情報解析を目的とする」とみなされ、「享受」を目的としない行為とみなされます。そのため、許諾無しでも利用できると解釈できます。

著作物は、情報解析を目的とする場合のような、著作物に表現された思想や他人に享受させることを目的としない場合には、原則としていずれの方法でも利用できる(参照:著作権法第30条の4

ただし、学習段階の時点で著作物をそのまま出力させる目的がある場合、享受目的が併存すると判断される可能性があります。

また、AI生成物による著作権侵害が発生した場合、その責任は原則として生成AIを使用してコンテンツを生成したユーザーが負うとされています。ただし、頻繁に著作権を侵害する生成物が出力される場合や、開発側が適切な抑制措置を怠っていると認められる場合には、サービス提供者の責任になる可能性もあります。

そのため、生成AIシステムを使用する際には、著作権侵害になる責任の範囲を理解し、著作権法の遵守を意識した利用が重要です。


生成AIシステムの利用時

生成AIシステムの利用段階では、上述した生成物に対する「類似性」と「依拠性」が認められるかどうかに加えて、著作権法の権利制限規定の対象外に該当するかどうかが、著作権侵害の有無を判断する重要なポイントです。

例えば、既存の著作物に類似した生成画像をコーポレートサイトや企業のSNSで公表すると、著作権侵害と判断される可能性があります。

そのため、生成AIで出力したコンテンツを外部へ公開する場合には、「生成物が既存著作物に対してどの程度独自性を有しているか」や「権利制限規定に該当しない利用方法であるか」を事前に確認することが重要です。


生成AIの出力を他のAIシステムの学習データとして使用する際

ChatGPTなどの生成AIが生成したテキストや画像、音声などのコンテンツを、他のAIシステムの学習データやアノテーション用データ(の補完や拡張を含む)として活用する場合には、著作権問題のリスクが伴います。

非営利や研究目的であっても、アノテーションデータの拡張のために生成AIでデータセットを作成する行為が必ずしも「享受」に該当するとは限りません。利用の目的や方法、生成されたデータの性質などを総合的に判断する必要があります。

しかし、享受を目的としていると判断された場合には、著作権者の許諾が必要です。

享受であるか否かの問題のほかに、生成AIシステムの中には、その出力物の使用に関して特定のライセンス条件を設けている場合や、商業利用を制限している場合があります。

なお、AIが生成したデータを使って新たなAIを訓練すると、数回の学習サイクルでデータの品質や多様性が急速に劣化し、意味不明な内容になる現象が観察されています。原因として、AIが生成したコンテンツには、元モデルのエラーや偏見を含んでいる可能性が挙げられます。

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3. 実際に生成AIで著作権侵害が問題になった事例

 

生成AIが各国でさまざまに活用される中で、適切ではない方法で生成AIを利用し、著作権侵害となった事例も増えてきています。以下では、実際に生成AIで著作権侵害が問題になった事例について紹介します。


ウルトラマンに類似する画像を生成するAIに対して損害賠償請求が認められた

中国の裁判所が、画像生成AIによって出力された画像が「ウルトラマン」に類似しており、著作権侵害にあたるとAIサービス提供者に損害賠償を命じました。

本件は、「AIの生成物が既存の著作物とどの程度似ているか」や、「生成物が著作権で保護される表現をどのように反映しているか」が、著作権侵害の判断において重要なポイントであることを示しています。

また、生成AIの提供者が、著作権侵害を防止するための適切な管理・抑制措置を取らなかった場合、その責任を負う可能性があることも示唆しています。

参考:https://www.yomiuri.co.jp/culture/subcul/20240415-OYT1T50069/


画像生成AIが著作物の写真を無許可で使用したとして訴訟へ発展

アメリカの写真・画像素材サイトを運営するゲッティイメージズは、画像生成AI「Stable Diffusion」を開発したStability AIに対し、著作権侵害で訴訟を提起しました。 

ゲッティイメージズは、Stability AIが著作権で保護された画像を含む約1,200万点の素材を無断で、AIモデルの学習データとして使用したと主張しています。

この訴訟は、AIが既存の著作物を学習データとして利用する際の著作権問題に影響を与える内容となっています。 


参考:https://japan.cnet.com/article/35199679/


4. 生成AIを利用する際に著作権問題を回避するためのポイント


生成AIを活用する際には、自社でリスクに備えることで著作権問題を回避できます。以下では、生成AIを利用する際に著作権問題を回避するためのポイントについて紹介します。


信頼できるAIベンダーへ委託する

信頼できるベンダーであれば、著作権に関する生成AIに関する法的リスクを十分に認識しており、生成AI関連の著作権侵害のリスクを避けるための適切な対策を講じられます。例えば、著作権を侵害するようなデータの使用や学習プロセスを事前に防止し、適法なデータのみを利用するように管理してもらえます。

そのため、自社が意図せず著作権侵害の加害者になるリスクを大幅に減少できます。

信頼できるベンダーと提携することは、AI活用において法的リスクを抑えながら、安心かつ迅速に生成AIを活用するための重要なステップといえます。


他者の作品を利用する際には許諾を得る

他者の作品を生成AIの学習データとして利用する際には、著作権者から許諾を得る必要があります。

他社のキャラクターデザインやロゴ、画像データなどの既存著作物を生成AIの学習目的で利用したい場合には、許諾を得ておくと安心です。


データマネジメントを推進する

生成AIの開発・運用において著作権問題を回避するためには、適切なデータマネジメントを推進することが不可欠です。生成AIに関わる著作権問題は、使用するデータや生成するデータの管理によって大きく左右されるため、データマネジメントの整備が安全な開発につながります。

例えば、テキストデータの収集段階では、AI学習に利用してはいけない規定があるデータを除外する必要があります。

このような禁止事項を明確にし、データ収集や利用に関するガイドラインをマニュアル化することで、データマネジメントの質を高め、著作権侵害リスクを軽減できます。

 


5. まとめ

生成AIでデータの水増しや、画像やテキストなどのコンテンツを作成する際には、著作権に関するリスクを常に意識することが重要です。生成物と著作物の類似性と依拠性が認められる場合には、著作権侵害と判断される可能性が高まります。

著作権侵害の加害者とならないためには、信頼できるAIベンダーにアノテーション作成やシステム開発を委託することや、著作者とのライセンス契約など事前対策が必要です。

また、生成AIは今後も急速に発展が見込まれる分野であり、これに伴って現行の著作権法やガイドラインも変更される可能性があります。そのため、常に最新の法的見解や文化庁からのガイドラインの更新を確認し、適切に対応できるようにしておくことが、生成AIを安全に活用するために重要です。